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2023-07-02 10:37

#2069 【朗読】怪人二十面相 七つ道具 from Radiotalk

#2069 【朗読】怪人二十面相 七つ道具
納涼夏のぴんくまつりの企画「青空文庫リレー朗読会」に参加させていただきました。

参照リンク
✔︎https://www.voicefan.net/voic-fan-radio/pink2023-summer/pink-summer-entry-roudoku/

#202307n #納涼夏のぴんくまつり2023 #青空文庫怪人20面相リレー朗読会 
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青空文庫 怪人二十面相 履歴朗読会 七つ道具
小林少年はほとんど20分ほどの間、地底の暗闇の中で、墜落したままの姿勢でじっとしていました。
ひどく腰を打ったものですから、痛さに身動きする気にもなれなかったのです。
その間に天井では二十面相が散々あざけりの言葉を投げかけておいて、落とし穴の蓋をびっしゃり閉めてしまいました。
もう助かる見込みはありません。永久の虜です。 もし賊がこのまま食事を与えてくれないとしたら、
誰一人死ぬものもないあばら屋の地下室で飢え死にしてしまわねばなりません。 年葉もいかぬ少年の身でこの恐ろしい境遇をどう耐えしのぶことができましょう。
大抵の少年ならば、 寂しさと恐ろしさに絶望のあまりしくしくと泣き出したことでありましょう。
しかし小林少年は泣きもしなければ絶望もしませんでした。
彼はけなげにもまだ二十面相に負けたとは思っていなかったのです。 やっと腰の痛みが薄らぐと、少年がまず最初にしたことは、
変装の破れ衣の下に隠して肩から下げていた 小さなズックのカバンにそっと触ってみることでした。
ピッポちゃん、君は無事だったかい? 妙なことを言いながら上から撫でるようにしますと、
カバンの中で何か小さなものがゴソゴソと動きました。 ああ、ピッポちゃんはどこも打たなかったんだね。
お前さえいてくれれば、僕ちっとも寂しくないよ。
ピッポちゃんが別情なく生きていることを確かめると、 小林少年は闇の中に座って、その小カバンを肩から外し、
中から万年筆型の懐中電灯を取り出して、 その光で床に散らばっていた六つのダイヤモンドとビストルを拾い集め、
それをカバンに収めるついでに、 その中のいろいろな品物を紛失していないかどうかを念入りに点検するのでした。
そこには少年探偵の七つ道具がちゃんと揃っていました。 昔、武蔵坊弁慶という豪傑はあらゆる戦の道具をすっかり背中に背負って歩いたのだそうですが、
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それを弁慶の七つ道具といって今に語り伝えられています。 小林少年の探偵七つ道具はそんな大きな武器ではなく、
ひとまとめにして両手に握れるほどの小さなものばかりでしたが、 その役に立つことは決して弁慶の七つ道具にも劣りはしなかったのです。
まず万年筆型懐中電灯。 夜間の捜査事業には明かりが何よりも大切です。
またこの懐中電灯は時に信号の役目を果たすこともできます。 それから小型の万能ナイフ。
これにはノコギリ、ハサミ、霧など様々な刃物類が折りたたみになってついております。
それから丈夫な絹ひもで作った縄梯子。 これは畳めば手のひらに入るほど小さくなってしまうのです。
その他やっぱり万年筆型の望遠鏡、 時計、磁石、
小型の手帳と鉛筆、 最善俗を脅かした小型ピストルなどが主なものでした。
いや、その他にもう一つ、 ピッポちゃんのことを忘れてはなりません。
懐中電灯に照らし出されたのを見ますと、それは一羽の鳩でした。 可愛い鳩が身を縮めて、鞄の別の区画におとなしくじっとしていました。
ピッポちゃん、窮屈だけれど、もう少し我慢するんだよ。
怖いおじさんに見つかると大変だからね。
小林少年はそんなことを言って頭を撫でてやりますと、 鳩のピッポちゃんはその言葉がわかりでもしたように、
クークーと泣いて返事をしました。 ピッポちゃんは少年探偵のマスコットでした。
彼はこのマスコットと一緒に居さえすれば、どんな危難にあっても大丈夫だという、 信仰のようなものを持っていたのです。
そればかりではありません。 この鳩はマスコットとしての他に、まだ重大な役目を持っていました。
探偵の仕事には通信機関が何よりも大切です。 そのためには、
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警察にはラジオを備えた自動車がありますけれど、 残念ながら私立探偵にはそういうものがないのです。
もし洋服の下へ隠せるような小型ラジオ発信機があれば一番いいのですが、 そんなものは手に入らないものですから、
小林少年は電子バトという面白い手段を考えついたのでした。
いかにも子供らしい思いつきでした。 でも子供の無邪気な思いつきが、時には大人をびっくりさせるような効果を表すことがあるのです。
僕のカバンの中に僕のラジオも持っているし、 それから僕の飛行機も持っているんだ。
小林少年はさも得意そうにそんな独り言を言っていることがありました。 なるほど、
電子バトはラジオでもあり、 飛行機でもあるわけです。
さて、7つ道具の点検を終わりますと、 彼は満足そうにカバンを衣の中に隠し、
次には懐中電灯で地下室の模様を調べ始めました。 地下室は十畳敷ほどの広さで、
四方コンクリートの壁に包まれた、 以前は物置にでも使われていたらしい部屋でした。
どこかに階段があるはずだと思って探してみますと、 大きな木の梯子が部屋の一方の天井に吊り上げてあることがわかりました。
出入口を塞いだだけでは足りないで、 階段まで取り上げてしまうとは、
実に用心深いやり方と言わねばなりません。 この調子では地下室から逃げ出すことなど、
思いも及ばないのです。 部屋の隅に一脚の壊れかかった長椅子が置かれ、
その上に一枚の古毛布が丸めてある他には、 道具らしいものは何一品ありません。
まるで牢獄のような感じです。 小林少年はその長椅子を見て思い当たるところがありました。
橋場総司君は、きっとこの地下室に監禁されていたんだ。 そしてこの長椅子の上で眠ったに違いない。
そう思うと何か懐かしい感じがして、 彼は長椅子に近づき、
クッションを押してみたり、毛布を広げてみたりするのでした。 じゃあ僕もこのベッドで一眠りするかな。
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大胆不敵の少年探偵は、そんな独り言を言って、 長椅子の上にゴロリと横になりました。
晩時は夜が明けてからのことです。 それまでに十分栄気を養っておかねばなりません。
なるほど、理屈はその通りですが、 この恐ろしい境遇にあって
のんきに一眠りするなんて、 普通の少年にはとても真似のできないことでした。
ピッポちゃん、さあ眠ろうよ。 そして面白い夢でも見ようよ。
小林少年はピッポちゃんの入っているカバンを大事そうに抱いて、 闇の中に目を塞ぎました。
そして間もなく長椅子の寝台の上から、 スヤスヤと、
さも安らかな少年の寝息が聞こえてくるのでした。 ただいまの朗読はナオくんでした。
引き続き、青空文庫、怪人二重面相、 リレー朗読会をお楽しみください。
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