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2022-02-14 02:35

#25【青空文庫】月日の話

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坂口安吾「月日の話」

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Sakaguchi Ango title:The story of the month and day

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月日の話 坂口杏子
最末に小読みをもらってページをめくりつつ、新しい年を考える。
今月の歴史というところを読むと異様な気がするのである。 このことは一般の人々は気づかないことで、それが普通なのだが、
小説家、 特に歴史小説を書いている私などから見ると、
大変奇妙に思われることが多い。 例えば、儀子の討ち入りの頃は、元禄十四年極月十二月十四日と
なにわ節に歌われていることは誰も知る通りである。 けれどもこれは退院歴でいってのことで、
今日通用している対応歴から言うと、多分、 翌年の1月十何日ぐらいに当たるのではないかと思う。
今日の対応歴というものは明治政府が採用したもので、それ以前は退院歴であるから、 1ヶ月以上の開きがあるのが普通である。
私がこのことを肝に銘じたのは、私が島原の乱を書こうと思って文献を調べ始め た時からで、
キリシタンの文献は資料が日本側と外国側と2種類あり、 日本側の日付は退院歴であるが、西洋側は対応歴なのである。
したがって事件の発端が12月にかかっている天草の乱のごときは、 退院歴では翌年にかかっており、
退院歴の元旦に天草のキリシタン組が油断していると思って総攻撃した時、 キリシタン側には何でもない平日で、
ために日本側は総大将が戦死するほどの大損害をこむった。 そして今日の小読みに至っても、
退院歴の日付がそのまま対応歴の歴史として伝えられているのである。 日本の学者のズボラさ、非科学性もはなはだしというべし、
ただ、 紀元節の2月11日だけは退院歴の元旦と対応歴に逆算して算定したものだそうである。
すべてがこのようでなければ、 記念日などというものは実は全く日付違いなのである。
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