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2026-10-22 36:51

【蓮月堂奇譚 -4-『砂の街』】

【蓮月堂奇譚 -4-『砂の街』】

作:Ene @ene_oeuf 様

BGM:魔王魂


https://giraffe.noor.jp/saha.html


お借りしました!

#フリー台本


2・4・6・12

16・18・22・26日更新予定


BGM:魔王魂『ピアノ41』

https://maou.audio/bgm_piano41/


【活動まとめ】 https://lit.link/azekura

感想

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00:06
サハノン。もう一つの名を知っていますか?
こんにちは。先生、聞いてよ。外見た?
そこの角で郵便屋の自転車が派手に転んでてさ。 手紙が全部泥まみれ。
おや?女子は? あれ?何?珍しい。もう店じまい?
ていうか、何?その格好。まさか出かけるの? まさかって何です?
だって先生、最後に雨が降ったのいつかは知らないでしょ?
何です?人を引きこもりみたいに。 用がなければ外に出ないだけですよ。
街灯初めて見たよ。僕てっきり服それしか持ってないと思ってた。
やつぎ早に失礼ですね。君って子は。 それより、急用ですか?
すみませんが僕は少し店を開けますから、 急ぎでないならまた今度。
どうしたの? いえ、お呼びがかかりましてね。
そういえばもうそんな時期でした。 今年は何かと忙しくてすっかり忘れていたんですよ。
お呼び? あれは今しかないんです。
下死の日だけなんですよ。 毎年のこととはいえ、見逃すとまた1年待たなければなりませんから。
だからさっきから何の話をしてんのさ? レディーの話です。
レディー? えっ、先生恋人いたの?嘘でしょ?
今日の君は僕に喧嘩を売りに来たんですか? そうじゃないけど、え?どういうこと?
何レディーって?誰?僕も知ってる人? 君にはまだ話したことがありませんでしたかね?
まあ帰ったら見上げ話をしてあげますから。 旅行ってこと?
そんなところです。 まあ何事もなければ明日には帰りますから。
今年は少しばかり特別なんですよ。 デルデリッサのこともありますし。
デル…何? 秘密の小部屋の管理人です。暫定ですがね。
もともとはあれもモールトン氏の管轄だったんですけどね。 まだ遺産の引き継ぎが落ち着いていないんですよ。
何しろ彼のコレクションは膨大な数ですから、 現状は何人かで持ち回りみたいなことになってるんですけど。
ちょっと何なのさ!さっぱり話が見えない!
すみませんね。もう時間なんです。行かないと。 さあ、君も出て。
ね、ねえ、よくわかんないけど、僕もついてっちゃダメ?
君が? ダメですよ。学校はどうするんです?
03:03
明日は日曜だよ。それに旅行ってことは鉄道でしょ? 僕、まだウエストコーストに乗ったことないんだ。
お家の方が心配するでしょ。 先生と一緒なら大丈夫だよ。
母さんも姉さんも将来は連月堂で働きなさいって言ってるぐらいだから。
従業員を雇う気はないって何度も伝えてるはずなんですが。
ねえ、いいよね? そうと決まればさ、支度してくるね。
5分で戻るから待ってて。 あ、姉さんにサンドイッチ作ってもらうからさ、先生の分も。
ピクルス入ってても大丈夫だっけ? ない方が…
OK! あ、あとさっきその辺にノアがいたからさ、家に帰るように伝えといて。
もう3日ぐらい帰ってこないからさすがに姉さんが心配してるんだ。
この辺は縄張り激戦区ですから、新参者のノアがうろついていられるとは。
あいつ強いんだよ。今じゃこの辺のボスだよ。 そんなことになってたんですか?
ね、だからたまには外に出た方がいいってことさ、先生。 それじゃあよろしくね。
僕が戻ってくる前に出発しちゃダメだよ。 連れて行くとは言ってないんですけどね、一言も。
なんだ、本当にいたんですか? ダメですよ、ここには薬しかないんですから。
困りましたね。 僕はあまり君とはお近づきになりたくないんですよ。
君もそうでしょ? さ、家にお帰りなさい。
エリザベスが心配しているそうですよ。 で、結局何なのさ、どこに行くのさこれ。
乗ってから聞きますか。 サハですよ。
サハ? 聞いたことない、どこ?
それはそうです。地図に載っていない町ですからね。 道順を知っている者でなければたどり着けないようになっているんです。
なんで? そういう町だからですよ。
それよりジョシュア、君本当に大丈夫ですか? 今夜は泊まりになりますよ。
というより、眠れるかどうかわかりませんよ。 徹夜覚悟の集まりですから。
いいね、キャンプみたいだ。僕そういうのやってみたかったんだよね。 男同士の友情って感じの。
君と僕は友達じゃないでしょう。 じゃあ今日会う人たちは先生の友達なの?
知人です。 へーんなの。
じゃあ友達じゃなくてもいいなら僕が一緒にいたって構わないじゃん。 君は最近減らず口に磨きがかかりましたね。
06:11
先生の影響だと思うよ。 で、そのサハって町が何なのさ。どうして今日じゃなきゃダメなのさ。
それはまあ、ついてから説明した方が早いでしょう。 見ればわかりますから。
でももうすぐ終点だよ。この先は湖水地方でしょ。 僕こっちまで来たの初めてだ。ピーターラビットにでも会いに行くの?
ウィンダミアで知人と待ち合わせているんですよ。 礼儀正しくできますか?
任せてよ。僕成績表の紳士的な態度の項目はいつも満点だもの。 じゃあその人がレディー?
いいえ、女性ではありますがね。 前から思ってたけど先生っていくつなの?
どうして。 だって僕もう4年も一緒にいるけど浮いた話とか聞いたことないもの。
変なこといっぱい知ってるしさ。 もしかして見た目よりずっとおじいさんだったりするの?
そうかもね。 日本人は若く見えるそうですから。
冗談ですよ。僕はこれでも苦労してるんです。 さあ、そろそろ終点です。
そのサンドイッチやらお菓子やらを片付けて降りる準備をなさい。 切符はポケットにありますね。
はーい。
はぁー。
はぐれないでくださいね。 こんなところで迷子になったらもう一生会えませんよ。
思ったより寒いね。それにすごく空気が綺麗だ。 ヨークシャーと大違いだよ。イギリスにこんなに気分のいい場所があったなんて。
イギリスとは本来こういう土地です。 人を拒む、選別する。
良くも悪くも敗多敵で意地が悪い。 だからこそここはまだ別の世界と繋がっていられるのでしょうけどね。
え?
驚いた。あなた手紙じゃ結婚したなんて言ってなかったじゃない?
ああ、エルフィだ。お久しぶりです。 迎えに来てくれたんですか?
あなた一人だと思ってたわ。サプライズね。 子供連れてくるなんて。知ってたらお菓子ぐらい持ってきたのに。
こんな大きな子がいる年じゃありませんよ、僕は。 こんにちは、坊や。お名前は?
ジョシュア。 えーっと。
こちらはエルフィだ。古い友人でしてね。 今回、サハマで案内をしてくれることになっています。
09:02
初めまして、エルフィだ。 僕、一緒に行ってもいい?
もちろんよ。歓迎するわ。 せっかく年に一度のことだものね。
きっと素晴らしい体験になるわ。 ありがとう。でも僕、何をしに来たのかあんまりわかってないんだけど。
説明してないの? まあ、どう説明したものかと思いまして。
どうせ一緒に来るなら自分の目で見た方が早いですしね。 彼は秘密主義なんだ。
街よ、ジョシュア。これから街を見に行くの。 サハという名の古い古い街をね。
それは聞いたよ。 年に一度しか見られないのよ。
だからこの時期は事情を知る人たちがイギリス全土から集まってくるの。 外国からもね。
ついでに休校を温めようってわけよ。 この人みたいなデブ症も多いから。
どうして年に一度しか見られないのさ? 街でしょ?まさか普段は布でもかぶせてるの?
そのまさかです。 え?
さあ、時間が惜しいわ。出発しなけりゃ。 ポーリーポワントが始まる前に着きたいものね。
ここからは少し夜の森を歩いてもらうわよ、ジョシュア。 大丈夫?
平気だよ。僕先生より体力あるもん。 どうして君はそう、いちいち一言多いんですかね。
荷物をよこして。ほら、あなたも。 ええ、いいよ。自分で持つから。
僕、これでも学校じゃ紳士で通ってるんだよ。 あなたっていい子なのね、ジョシュア。
でも気にしなくていいわ。これもガイドの仕事よ。 さあ、チハルも。
僕は結構貴重な薬も入ってますから、 ジョシュアの分だけ持ってあげてください。
チハル?
はい?
って?
あれ、言ってませんでしたか。 何が?
僕の名前ですよ。 チハルというんです。
とっくに教えたと思ってましたが。 聞いてないよ。
この先に町があるなんて、とても思えないんだけど。 ずーっと森じゃん。
本当にもう真っ暗だした。 2時間ぐらい歩いてるよ。
僕ら、 遭難してないよね。
こんなところに、人なんか、 住んでるの?
12:00
だから徹夜覚悟の集まりだと言ったでしょ。 大丈夫ですか?
別に、 平気だけど、
先生の方がよっぽどフラフラしてるじゃん。 日頃の運動不足だね。
僕は君と違って大人です。 さすがに子供の君よりは。
去年は真っ先にへばってたくせによく言うわ。 結局モールトン爺さんにも抜かされてたじゃないの。
余計なことを。 爺さん亡くなったんだってね。
私のとこにも手紙が来たわ。窓がどうこうって。 結局まだ開けっぱなし?
僕も実物を確認しに行ったわけじゃないですからね。 誰かが買ったって話も聞きませんが。
売りに出されたままってこと? マズいんじゃないの?
マズいことはマズいですけど、 この先は管理者が何とかするしか。
デルデリッサが公認でほぼ決まりなんでしょう。 まだ子供よ。小部屋に入れるからそうなったってだけ。
モールトン爺さんみたいに口が回るわけでもないしね。 今日はチハルも来るからって言ったんだけど結局出てこなかった。
しばらくは苦労すると思うわ。 引き継ぎもほとんどなかったんだから。
最後に会った時はまだお元気そうに見えたんですがね。 わからないものですよ、こればかりは。
人は死ぬわ。生まれるのと同じだけね。 私だって来年はどうなってるかわからない。
魔法使いの弟子を殺せる者がそうそういるとは思えませんけどね。
魔法使いもその弟子もただの人間よ。 あなただってそうでしょ?
あの、質問いいかな?
どっちか一人でも僕と会話してくれる気があるならってことだけど。
あら、ごめんなさい。話し込んじゃって。
もう訳のわかんない話ばっかで、 何から聞いていいかもわかんないんだけどさ。
あの、 さっき言ってたポーリーなんとかって?
ポーリー・ポアントね。 下死の日の祭りのことよ。
つまりは今夜、その日だけ、 サハが姿を現すってこと。
はぁ。
忌まわしき淑女という言葉を知っていますか? 女子は。
うちのお母さんのこと? 君はその減らず口をどうにかしないとそろそろ本当に殺されますよ。
忌まわしき淑女ね。 古くはアーサー王伝説とか、ケルト神話にも登場するわ。
15:04
学校で習ったでしょ? 騎士ガウェインの話は知っている?
こっちではセイ・リザロって言うんだけどね。
えーっと、あれだ。醜い老婆と結婚させられるって話でしょ? でも本当はすごい美人だったんだっけ?
そう。つまり、男性から見て好ましくない容姿の女性、 あるいはお婆さんとかね、その概念をそう呼ぶんです。
ただしそれは呪いを受けた仮の姿。 呪いが解ければ真実の姿が現れる。
あ、だからレディ? レディって女の人じゃなくて、サハの町のこと?
そういうこと。 元はね、普通の町だったそうよ。
すごく質の良い水晶の鉱山があってね。 賑わってたし、眠らない町なんて言われるぐらい人の出入りも多かった。
サハの水晶といえば、通常の3倍で取引されるというぐらい有名だったんですよ。
へぇー。 だけどね、それだけ良いものが取れるってことは、やっぱりそれを狙う奴もいてね。
鉱山に勝手に入り込む輩が後を絶たなかったのよ。 それでサハの住民はこう網目のように道を巡らせて、侵入者の目を欺くことにした。
正しい道順はサハの正当な住民にのみ、口頭で伝えるようにね。
へぇー。うまくいったの?
最初はね。でも秘密っていうのはいつまでも秘密にしておけないの。
その道の順番もいつしかあちこちから漏れてしまって、鉱山はまたしても狙われるようになった。
困り果てた住民たちは今度こそどうしようかと知恵を出し合って、
魔法使いに頼んだんですよ。
魔法使い?
当時サハにはキアランという名の魔法使いが住んでいました。
彼もまた変わり者というか面白い人でしてね。
まあその話は長くなるのでまた後で。
サハの住民は彼に頼んで街ごとすべて偽りの姿で隠してもらうことにしたんです。
あたかも何もない廃墟であるかのようにね。
以来サハは伝説になったってわけ。
一夜にして廃墟と化した街ってね。外からはそう見えるから。
だけど…。
じゃあどうして今日だけそれが見れるの?
魔法は万能じゃないってことよ。
キアラン師匠はもともとあなたたち側の世界の人で、確かプラハの出だったかしら。
18:02
ひょんなことから手あであに飛ばされて魔法を学んだっていうちょっと変わった経歴の持ち主でね。
あ、僕それ知ってるかも。ひょっとして憂いの窓?
だよね先生。人をあちこち飛ばしちゃう窓と猫。
あら、よく知ってるわね。話したの?千春。
先日モールトン氏の不法を受け取ってくれたのがこの子でして。
その時に少々。
知ってるなら話が早いわ。好奇心の強い人だったからそのまま向こうに居ついて魔法使いになったって話だけど、生まれつきそうってわけじゃなかった。
だから彼の魔法には制約があったの。
サハの場合は下死の日になると魔法のベールは剥がれてしまう。
その度に魔法をかけ直さないといけないっていう風にね。
どうして下死の日?
下死の日っていうのは昼が一番長くなる日でしょ。魔法は夜の領域ですから。
なんで?
そういうものだからとしか言いようが、魔女も黒猫もなんとなく夜に活動していそうな感じがあるでしょ。
あれはあながち間違いではないんです。
この世を光と闇に大雑把に分けた時、魔法というのは暗い方にあるものなんですよ。
なんかわかるようでわかんないけど、確かに魔女って昼間の空を飛んでるイメージはないかも。
だから下死の日に一度リセットされるの。それが今もずっと続いているのよ。
へぇー、じゃあ今日もそのキアランって人が魔法をかけ直しに来るの?
ううん。残念だけど師匠はもうずいぶん前に亡くなったわ。
その後は弟子たちが役目をついてるの。私は四代目よ。
あ、だからさっきエルフィダのことを魔法使いの弟子って。
私も直接会ったことはないの。それでも彼の偉大な魔法は今もこの地に残ってる。
息づいてると言った方がいいかもね。 まだあるのよ。ここにね、女子は。
人はあっさり死ぬけれど、その後の世界に決して消えない何かを残すことだってできるのよ。
パパも?
え?
僕の父さん戦争で死んじゃったんだって。 だから会ったことないんだ。
でも僕は今ここに生きてるよ。母さんも姉さんたちも。
そういうこと?おいで、女子は。 こう考えてごらんなさい。
21:01
あなたのお父様が残したものは決して消えないわ。 あなたがここに生きている限り。
そしてあなたもいずれこの世を去る時には、後の世界のためにほんの少しだけ何かを残すわ。
例えばちょっとした刺繍みたいなものをね。 そうやって続いていくのよ。
うん。 サハの魔法をかけ直す儀式のことをホーリーポワントと呼ぶんです。
手当の古い言葉で流れ星が振り返る時という意味ですよ。
この祭りが転じて亡くなった人を偲んだり、そういう意味合いもあるようです。
そっか、なんか僕ちょっと楽しみになってきた。 ちっとも眠くないよ。こんな経験誰でもできることじゃないもんね。
いい子ね。 最初に親子だなんて言ってごめんなさい。
似ても似つかないわ、あんたたち。 どうせ僕はひねくれ者ですよ。
さあ、そこの沢で一休みしましょうか。 お腹が空いたでしょ。特製のサンドイッチを分けてあげる。
その後は一気に森を抜けてサハを目指すわ。 うん。
あれ、まただ。 どうしました?
なんかさっきから森の中に、ほらまた光が木の間にちらちら動いてる。
気づいた?あれは私たちと一緒よ。 サハを目指して歩いている人たちのランタンの明かり。
これからもっと増えてくるわ。 サハに着くのはいつ?
この調子だと日付が変わる頃かしら。 一番いいタイミングよ。
とっておきの場所があるのよ。 サハを一望できる丘の上。そこから見ましょう。
すごくいいね。楽しみだ。 でも僕、今朝に限ってタイムズ氏の天気予報を見なかったんだけど、もし雨が降ったらどうなるの?
心配いりませんよ。 キアラン氏の魔法が発動してから、この日サハで雨が降ったことは観測史上一度もないんです。
…のはずだったんだけどね。 おかしいわね。
ジョシュは、君、とんでもない雨男なんじゃないですか? そんなことないよ。サッカーの試合の日だって、僕が出場するときは必ず晴れだもの。
まあ、降ってきたものはしょうがないわ。 そのうち止むでしょう。それより、もうすぐ森の出口よ。準備はいい?
はーい。今のとこ視界最悪だけど。 ここからは君が先頭でどうぞ。もう本当にすぐそこですから。
24:04
ほんと?でもこの雨だし暗いし、本当に全然何も見えないんだけど。
いいからそのまま歩いて、その先に出て。 お待ちかねの砂の町のお出ましよ。
うん。 うわーって本当に何もない。
でしょ? ここ合ってるの?なんか思ってた以上に何もないんだね。
夜でもわかるよ。すっごい広い草原ってか砂漠みたい。 足元ぬかるみじゃなくてじゃりじゃりしてるもん。これ砂でしょ?
昼間だともっと何もないわ。ただの香料とした荒れ地って感じ。 さあ、こっちよ。いらっしゃい。
あの少し盛り上がっているところはキアランの丘。 わかりやすいでしょ?
キアラン師匠があそこから魔法をかけたのよ。 ねえ、これ本当に?本当にこんなとこに町が隠れてるの?
信じられないんだけど、二人して僕をからかってるんじゃなくて?
お言葉ですけど、僕はいくらなんでもそこまで暇じゃありませんよ。 まあ、見ていらっしゃい。
ああ、ヨウル。今年も来たのね。パーシーは元気にしてる?
ミーツエロ、何年ぶりかしら。 結構集まってきたね。僕、こんなとこにこんなお祭りがあるなんてちっとも知らなかったけど。
誰にでも開かれている道じゃありませんからね。 偶然迷い込むような場所でもない。
知っているものしかたどり着けないようになっているんです。 今後、このあたりも開発が進めばどうなるかはわかりませんがね。
ずっと隠れていられるのかな? そう願いますよ。
少なくともエルフィダのような後継者が存在する限りは、 サハは忌まわしき淑女であり続けることができますから。
うん。 あれ?
なんかあの辺ぼんやり明るくなってきてない? もう夜明け?
いいえ、まだ夜中の一時ってところです。 それじゃあ…
さあ、みんな。ご覧あれ。始まるわよ。
はあ… 美しいでしょ?
なんて、なんて言ったらいいかわからない。 こんなの綺麗とか美しいとか、そんなんじゃないよ。
さっきまで本当に、本当に何もなかったのに。
サハでは今日は夜通しの祭りよ。 大人も子供も誰も眠らない。
27:02
ありったけの水晶ランプにありったけの明かりを灯して、街全体を飾り付けるの。 まるで光の洪水みたいにね。
ほら、見える? 一際明るく浮かび上がっている光の筋が、かつての道ってわけよ。
じゃあ、あの先に鉱山が? そう、今夜は誰も入れないけど、あの道を通って実際に鉱山の入り口まで行く巡礼者もいるわ。
ポーリー・ポアンとは死者を痛む祭りでもあるって言ったでしょ? あの鉱山で亡くなった人たちの家族がみんなそうするの。
こんなに離れてるのに、本当だ、あの場所だけ光の洪水。 宝石みたい。
こんな景色見たことないよ。音楽も聞こえてくる。 夢みたいだよ。
街へ降りてみますか。 いいの?
ここまで来て街へ入らない手はないでしょう。 ほら、みんな移動し始めている。
お目当ては様々ですがね。何しろ年に一度のことですから。 あ、本当だ。
レインコート代わりに羽織ってなさい。 君に風邪でもひかせたらエリザベスに叱られますからね。
先生は?先生も濡れちゃってるじゃん。 僕は君と違って大人ですから。
今日の先生、なんか頼りになるなぁ。 調子狂うよ。
置いていきますよ。 あ、待って!
わぁ、すごい、すごい賑やか。
きらびやかっていうのかな。それにみんな見たこともない服着てる。 うわぁ、先生、見てよ、あれ。地面に宝石が。
そっか、鉱山があるんだもんね。 すごいやぁ。
これがサハなんだ。
ここはもうほとんどテアデアの入り口です。 紙の裏側ですよ、女子は。
本当にあるんだ、こんな世界が。 僕、今、そこにいるんだ。
そこまで感動してくれると、連れてきた甲斐がありますよ。 信じられない。今って真夜中でしょ。
僕、こんな時間まで起きてるの初めて。 うわぁ、お菓子も売ってる。買ってきていい?
おじさん、それ何?
あの子のああいう物応じしないところは、ある意味才能ですね。 僕、ちょっとしかお小遣い持ってこなかったけど、なんかイギリスのお金使えた。
しかもおまけしてくれたよ、ほら。 毎年この時期はイギリスからの観光客が来ますからね。
30:00
向こうも心得たものなんですよ。
そっかぁ。 エルフィドも来ればよかったのに。
彼女は準備がありますから。 ああ、そうか。魔法をかけ直すってエルフィドがやるんだ。
大変だよね。ずっと切れない魔法って、やっぱり難しいの? そんなこともないんでしょうけどね。魔法も進歩していますから。
ただまあなんというか、魔法と一緒にキアラン氏への敬意みたいなものが継承されているってことなんでしょう。
年に一度、淑女のベールが外れる下死の日は、もはやそれ自体が意味を持つようになっていますから。
なんか難しいけど、なんかわかる気もする。 あ、先生も食べる?すっごい甘いけど美味しいよ、これ。
結構、僕はそのお菓子は苦手なんです。 見るだけで胸焼けがします。
サハに来たらこれ食べなきゃ損だって言ってたけど、おじさんが。 キリフェと言ってね、この祭りの名物なんです。
それはそれは信じられない量のバターとハチミツでできたお菓子ですよ。 エルフィドは好物だそうですから、もう半分はお土産にしてあげたらどうです。
うん。
なんかさ、今日本当に楽しかったよ。 いっぱいいろんな話を聞いたし、先生のこともちょっとだけわかったしね。
名前とか。 本当に知らなかったんだよ、僕。反省してよね。
君だって聞かなかったでしょ。 ねえ先生、エルフィだっていい人だね。
僕、彼女のこと好きだよ。なんかちょっとだけ母さんに似てる。 なんでかな、エルフィダの方がずっと美人なのに。
でも、大人の女の人って自分だけ何でも知ってるみたいな顔することがあるよね。 まるで自分たちだけが鍵を持っている秘密の扉があちこちにあるみたいにさ。
実際、彼女は何でも知ってるんです。 そういう役割の人ですから。
僕に魔法の真似事を教えてくれたのも彼女ですよ。 本当に恋人じゃないの?
ご冗談を。 へぇーんなの。でも、そっか。
眠いですか?女子は。
ちょっとだけ? でも平気だよ。これから歩いて帰らなきゃだもんね、ウィンダミアまで。
またあの真っ暗な森を抜けてさ。
実を言うと、途中で音を上げると思っていましたよ。 よくついてきましたね。
だって僕もう子供じゃないんだよ。 姉さんも母さんも先生もずっと子供扱いするけどさ。
33:06
あと何年かしたら、ベッキーより僕の方が背が高くなるよ。 パパの代わりにだってなれるんだ。
ええ。
死んじゃった人が流れ星になるなんてそんなおとぎ話みたいなことを信じてないけどさ。
でもさっきエルフィダが言ってたことは僕わかったよ。 パパは僕らを残したんだ。
だから僕も何かを残さなきゃいけない。 そういうことだよね。
だから… 帰りましょうか、女子は。
長い冒険でしたね。 寝ちゃったの?
そんなことだろうと思った。 でもいい経験だったでしょ。
誰でも来れる場所じゃないからね。 おかげさまで。
ああ、これ、ジョシュアがあなたに。 お土産だそうです。
あら、ありがとう。嬉しいわ。 あなたはもうこのまま帰るの?
ええ。できれば始発で。 この子の家族も心配してますから。
あのすまし屋のチハルが子供をおぶって歩いているなんて衝撃的だわ。 あなたもそうしてると一発の男に見えるわよ。
普段はどう見えてるんです?
さよなら、番人さん。 久しぶりに会えてよかった。
また来年、この時期が来たら手紙を出すわ。 それまで元気でいらっしゃい。
あなたもね。 サハのもう一つの顔を知っていますか?
ほら、オクセンホルムの古仙峡ですよ。 君、見たがってたでしょ。
いつまで拗ねてるんです? エルフィダにお別れ言いたかったのにさ。
起こしてくれたっていいのに。 2、3回引っ叩きはしましたけど起きなかったんですよ。
ひどくない? ひどいのは君の顔です。まだ眠たいんでしょ?
無理して起きてないで寝てしまいなさい。 ヨークシャーについたら起こしてあげますから。
ほんと? ほんと。
ほんとにほんと? ほんとにほんとです。
ねぇ、先生。 なんです?
まだ半分夢見てるみたいだ。 でも夢じゃないよね。
36:03
本当に見たんだよね、僕。 あの素敵な景色をさ。
眠ったり他のことを考えたりしたら忘れちゃいそうでもったいないんだ。
すごく楽しかった。 僕、ずっと覚えていられるかな?
また来年もありますよ。 エルフィダが手紙をくれますから。
うん。 約束だよ。
すみません。 この子にブランケット。
それから 熱いコーヒーを一つ
お願いします。
36:51

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