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土の声。都会の小学校でオーガニック給食が導入された。息子の学校でも子どもたちの健康のためと輸入されたオーガニック野菜を積極的に取り入れる方針が打ち出された。
親たちの間には拍手は響いたが、農家の私の心には複雑な思いが渦巻いていた。
そんなある日、PTAの有志で行われたオーガニック料理の試食会に参加することになった。料理を担当したのは熱心なオーガニック推進派の藤井さん。
彼女は試食会の冒頭で高履席説した。オーガニックの魅力は何と言っても安心、安全。それに無農薬だから素材の味が生きるんです。
彼女が作ったサラダには地元の小規模農家から仕入れたオーガニック野菜が使われているとのこと。確かに見た目も鮮やかで、食べると新鮮でみずみずしかった。
やっぱりオーガニックは違いますね。農薬の苦い後味がないからこんなに美味しいんだわ。と藤井さんが微笑むと、他の親たちもうなずいた。
だが私はその野菜を一目見て気づいてしまった。藤井さんはオーガニックと思い込んでいるその野菜は実は私の畑で観光栽培として作ったものだったのだ。
藤井さんは知り合いの食材業者を通じて私の野菜を購入していたらしい。食事が終わり、片付けの最中に私は声をかけた。
藤井さん少しお話をしてもいいですか。彼女がうなずいたので私は静かに事実を伝えた。今日の野菜ですが実は私の畑で作ったものです。
そしてこれはオーガニックではなく農薬や肥料を適切に使った観光栽培のものなんです。藤井さんの顔に動揺が走った。
え、でも農薬が入っているのにこんなに美味しいなんて。私は微笑みながら続けた。農薬を使うといっても安全性を最優先に考えています。
使い方を間違えなければ苦い味も残らないし体にも悪影響はありません。それどころか必要な時に適量を使うことで病気や虫から野菜を守り、結果として良い味になることもあるんです。
藤井さんはしばらく黙っていたがやがて小さくうなずいた。 私ずっと農薬って悪いものだと思い込んでいました。
でも今日の野菜を食べてそれは全部じゃないと気づきました。 その後藤井さんは少しずつ考えを改めていった。
会合でも必ずしもオーガニックだけが正解じゃないという意見を口にするようになり 給食に地元産の野菜を取り入れる案を後押ししてくれた。
オーガニックって言葉に頼るだけじゃなくてちゃんと中身を見ることが大事ですねと 藤井さんが言った時私は彼女の変化を心から嬉しく思った。
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その日の夕方息子が畑にやってきた。 これ学校の給食で出るんでしょ?と嬉しそうに指差す。
私は彼に笑いかけた。 そうだよみんながこれを食べてくれるんだ。
父から生まれたものは正しい知識とともに届けられる。 そう信じながら私はまたくわを握り直した。