エチレンプラントの状況と再編
どうも、かねまるです。
プラントライフは、化学プラントの技術者が、
化学や工場に関するトピックを分かりやすく紹介する番組です。
今回のテーマは、12月なので誰もが知っておきたい化学ニュースですとか、
個人的に注目した化学ニュースを紹介します。
産業の大きな動きから、ちょっとマニアックな化学物質の話までお届けします。
大きく4つ。産業編、事故編、環境編、化学物質編、1つずつ言ってみましょう。
まずは産業編です。
今年の日本の化学業界、特に一連プラントに関するニュースは避けて通れない話題でした。
ところで皆さん、エチレンって聞いたことありますか?
プラスチックや合成繊維など、あらゆる化学製品の原料になる、
言ってしまえば石油化学製品のお米みたいな物質です。
基礎原料と呼んだりもします。
このエチレンを石油からナフサを経由して作っているのがエチレンプラントです。
あらゆる化学製品の原料になりますので、
このエチレンプラントの稼働率が景気の強弱を見る指標として使われます。
そんなエチレンプラントの稼働率が、今歴史的な低水準になっています。
もともと90%超えると経済的に良い、成り立っているって言われるんですけど、
今年は70%台になる月が増えてきて、非常に苦しい状況でした。
その理由が中国の台頭ですね。
これまでは日本で作って中国へ輸出していたんですけど、
中国国内に巨大な再支援のプラントができてきて、
自給自足できるようになったんですよね。
なんなら需要に対して供給の方が多い状態で、
各社が稼働を抑えないといけないくらいになってきました。
そしてもう一つ、日本においては設備の老朽化が問題になっています。
実は日本のエチレンプラントの設備の半分以上が、
稼働から50年以上経過しています。
メンテナンス費用もかさむし、エネルギー効率も最新のものには勝てません。
そろそろ老朽化した設備を新しくするか、
もしくは新しい設備にも相当なコストがかかるんで、
事業そのものを辞めるかっていう、
日本の石油科学企業の各社っていうのは重要な軌路に立たされているんです。
そんな中で、今年は各社の大規模な再編が相次いで発表されています。
国内最大規模の石油科学コンビナートが立っている千葉アーティスト、
マルゼン石油科学とスミトモ科学が集約させる話になっています。
そしてもう一つ、
イデミツ工産とミツイ科学も集約をするという話が進んでいます。
西日本に目を向けますと、エチレン供給網で再編が動き出しています。
アサヒ化成とミツイ科学と三菱ケミカル、
この3社で西日本のエチレン設備の集約を進めています。
再編自体はこれから着実に進められていきまして、
この規模の会社になると再編の発表があるとどんどん目に入ってくると思います。
塩素系ガス流出事故の教訓
見かけたら少し意識して調べてみてください。
次は事故編です。
これは現場の人間として身が引き締まる事例でしたね。
福岡県大村市のミツイ科学の工場で起きた塩素系ガスの流出事故です。
原因を一言で言いますと、水と塩素系ガスが出会ってしまったということなんです。
塩素系ガスが通るパイプを外側から冷却水に接触させて、
ガスを冷却させていました。
ガスに直接水をかけるんじゃなくて、
パイプ自体を冷やすことで間接的に塩素系ガスを冷やしてたっていう形ですね。
この冷却設備は熱交換器と言います。
そんな熱交換器に汚れなどが原因で小さなひびが入りました。
これを専門用語で汚力腐食割れと言ったりします。
このひびから冷却用の水が漏れ出して、
本来入ってはいけない塩素系ガスの配管に侵入してしまったんです。
中学や高校の科学で勉強したかもしれませんが、
塩素と水が反応すると塩酸ができます。
今回も同様に塩酸が発生しています。
この塩酸が配管を内側から強烈に腐食させて、
穴を開けてしまってガスが外へ漏れてしまいました。
物理的なひびがきっかけで予期せぬ化学反応が起きてしまって、
最終的に設備にダメージを与えたという流れです。
あと、この事故で意識したいのは、
工場・敷地外の周辺地域にまで匂いが広がってしまったということです。
消防と警察が周辺住民に外出を控えて窓を閉めるように呼びかけたようなレベルなんです。
ガスって本当に広がりますよね。
刈り取った草をのやきしている場面って遭遇したことないでしょうか。
その時に発生する煙とか匂いって相当な範囲で広がっているんですよね。
化学プラントの怖さとメンテナンスの難しさというのを改めて実感させられる事故でした。
未来の化学プラントとヘキサニトロゲン
さて、暗い話ばかりじゃありません。
環境編では未来を感じるニュースをお伝えします。
アメリカのDAO Chemicalがテキサス州の工場敷地内に小型の原子炉を設置する計画を進めています。
2025年に建設許可の申請を行いました。
化学工場に原子炉って驚くかもしれないんですけど、これ電気を作るためだけじゃないんです。
熱が欲しいんですよね。
化学プラントって蒸留したり反応させたり、ものすごい熱エネルギーを使います。
今はガスなどの燃料を燃やしてその熱を使っているんですけど、それだけだとCO2が出てしまいます。
そこでCO2を出さない高温の熱源として次世代の原子炉を使おうという話なんです。
ちょっと日本の方からしたら驚きの内容だと思います。
化学工場の動力源が原子力になる、そんな未来がちょっとずつ近づいてきてるんですよね。
まだこれが最初の事例なので、まだまだ先だと思いますけど、炭素循環社会に向けてこれからホットな話題になる可能性がありますので紹介しておきます。
そして最後に化学物質編です。
これは正直化学好きに向けたニュースなんですけど、ヘキサニトロゲンという物質が合成されました。
化学構造式はN6です。
窒素Nって普通はN2という形で、窒素原子2つがくっついて空気中にある窒素分子になっています。
空気中に約78%あるめちゃくちゃ安定した物質です。
でも窒素原子を6個無理やりつなげたN6が作れたんです。
これものすごいエネルギーを持っています。全然安定してないんです。
一応化学に詳しい方向けに話すと、アジドが2つくっついた化合物です。
もっと簡単に言うと、爆発力が高いものが2つくっついて強力な爆発力を持っている物質です。
用途はやっぱり燃料ですね。
燃えた後は無害な窒素ガスに戻るだけという究極のクリーンなエネルギー物質です。
これすごいじゃん、使おうってなるかもしれないんですけど、さすがにそういうわけではなくてですね。
原料にはアジカギンという、これもまた爆発性の高い物質を使っていて、
原料も爆発性があるし、出来上がったものはもっと爆発性があるし、あまり扱いたくはないですよね。
結局製造するのに安全対策が重要になってきて、コストは相当かかると思います。
物質としてかなり特徴的ですね。
個人的に大発見の内容でした。
というわけで今回は、エチレンプラントの再編から最新の原子炉、
ヘキサンニトロゲンの合成、そして化学プラントの事故まで幅広くお届けしました。
実は今回の配信は、ポッドキャストのイベント、リッスンアドベントカレンダー25に参加している回なんです。
12月1日から25日まで、いろんなポッドキャスターがリレー形式で配信をつないでいく企画です。
前日12月6日は、秋子の声日記、あなたにニヤニヤがあるように、という内容と、
タナラジオさんの声の屋台村ルーム横丁の夢、という内容が公開されています。
そしてこれが公開される同じ日12月7日は、ゴトーツソング創作隊、
なぜ人は年末に音楽を振り返るのか、という内容が公開されます。
また翌日12月8日は、世界のネジを巻くラジオ、ゲイのネジ巻きラジオから、ネジ巻きラジオというタイトルで公開。
もう一つ、マイカップオブティから、来年は頑張る、とのことです。
同じ日を担当しているゴトーツソング創作隊のワタンドさんから、私宛にDMをいただきました。
好奇心をくすぐられる学びの体験と、情報発信の取り組みの姿勢で共感することばかりで、
ここ数日プラントライフを聞き漁っておりましたと言っていただいて、
ワタンドさんありがとうございます。めちゃくちゃ嬉しいですね。
ワタンドさんは、ゴトーツソングや知名が出てくる歌を紹介されています。
私は高田渉さんっていう、1970年代を中心に活躍したホークシンガーが好きでして、
その中でおすすめしたいのが、コーヒーブルースっていう曲です。
京都の山城にある井の田コーヒーという実在する喫茶店が舞台でして、
山城へ行かなくちゃ、山城境町の井の田っていうコーヒー屋へね、というフレーズがあります。
ぜひ聞いてみてください。今回はここまでです。
プラントライフでは、化学や工場に関するトピックを扱っています。
毎週水曜日と日曜日の朝6時に定期配信しています。
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渡ンドさんがくれたような熱いメッセージっていうのはとっても嬉しいので、いつでもお待ちしています。
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それではお聞きいただきありがとうございました。