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  2. ep.123 「円卓」西加奈子 朗読
2020-05-07 23:53

ep.123 「円卓」西加奈子 朗読

円卓という小説の朗読です。
00:06
こんにちは、パリのアパルトマンからお届けします。フリーランスのSAKIです。
このラジオは、私SAKIがパリ生活やビジネス、読書で学んだことを配信しています。
皆さん、お元気でしょうか。
あのー、今サロンやってるんですけど、
サロンの方で私のね、ポッドキャストの朗読の回を結構こう繰り返して聞いてくださってるっていう方がいまして、
なんか落ち着きたい時とかに聞いてくれてるらしいんですよね。
まあ嬉しかったんで、すごく調子に乗ってちょっと朗読を今日やっていきたいと思ってます。
今日読む本は、いつものね、西加奈子さんの本なんですけども、
円卓という本です。
これちょっと前に足田真奈ちゃんが、ちょっと前じゃないなこれ、
すごい前に足田真奈ちゃんが主演で映画化された作品なんですよね。
小学生の日常の話なんですけど、
本当にねこれ、小学校の時こんなやったわ、こんななんか自意識やったわみたいなのが、
すごいね、鮮やかに書かれてて、
どうやったらこんな小学校の時の感覚を言語化して書けるんだろうって思う、
驚きの本なんですけど、
それと同時にすごい面白くて、
共感もできるし、笑えるしっていうことで、
ちょっと読んでいきたいと思ってます。
最初の1小節ぐらい読もうかなと思います。
じゃあ行きます。
高田恵さんが眼帯をして登校してきた。
3年2組の児童みな、高田恵さんの周りに集まり、
どうしたんそれ、撮ってみて、などと騒ぐのだが、
高田恵さんは普段から大人しい性格というより、
とても大人びた女子児童であるから、
大騒ぎをしているみなを知りめに、
うん、ものもらい、そう言っただけで、
ふわり席についてしまった。
ものもらいというその言葉に、みなまた、
何それ、どんな病気、見せて見せて見せて、と沸き立ったが、
高田恵さんは困ったような顔をし、みなを見渡して、
見せてあげたいねんけど、触ったら映るんよ、
と本当の大人みたいに言うのだ。
だから眼帯してるねん。
児童らは彼女を徹底的に尊敬してしまった。
高田恵さんが伝染病はずらい、
それをあの白い眼帯というやつで隠している。
彼女はもともと男子の間だけでなく、
03:00
女子の間でもとても人気のある児童で、
それは彼女の大人のような仕草や、
給食時の上品な三角たべ、
国語の教科書を読む際の美しい標準語など、
いろいろ理由があるのだが、
結局はこの多くを語らない謎めいた雰囲気によるところが大きい。
そのような様子をミステリアスと呼ぶ。
大人になった際、それを駆使することによって
異性の気を引くことができる代物であるが、
高田恵さんはまだ9歳。
児童らがなぜ自分にこれほどの興味を持つのかは謎だし、
児童らもなぜこれほどまで高田恵さんのことが気になるのかげせない。
ただ、高田恵さんは学級の中でも背がうんと高く、
ということは自分たちより自動的に大人に近い。
大人である高田恵さんは、
自分たちの知らないことを知っていそうだと思う。
それが今回の物もらいであり、眼帯なのである。
3年2組の中で、高田恵さんのもわっとした憧れを
一番胸に秘めているのが渦原琴子だ。
琴子が言いにくいので、コッコと児童らを呼んでいるが、
男子は当然のごとく鳥の歩き方を真似てみたり、
コケコッコに始まるのんきな歌を歌ってコッコをからかう。
コケコッコ、コケコッコ、コッコの戸坂は里親に。
無知な歌だ。
コッコの戸坂は里親に?という節の理由や由来は、
今となっては誰も知らないが、まがまがしい雰囲気は伝わる。
とにかくそれは、コッコに振り向いてほしいための愛の歌なのである。
コッコは早生まれの8歳。
そのような男子児童の愛情の裏返しにはさとくないし、
そもそも異性に興味がない。
かといって、草熟な女子児童の中にあって、
コッコが子供じみた人物であるかというと、そうではない。
彼女の心の中、男子鼻水たらし、爪の中黒く、作詞のセンスなし、ガキが。
コッコは聡明であり、彼らの愚行をバカにできるぐらいに大人なのである。
コッコは今、一番窓側、後ろの席で、ジャポニカの自由帳に、
物もらい、と書いている。
限りなくゴシックに近い、力強い自体はコッコ特有のものであり、
そればかりは教師に幾度言われても直せなかった。
コッコは考える。
物もらいという病気を患ったら、
あの白くてかっこいい眼帯を目に装着することができる。
06:03
そして片方の目だけで世界を見ることができるのだ。
コッコは言いたい。
わたくしに近づいたらうつるのよ。どうか一人にして。
それによって得られる孤独をもってうっとりする。
ひとりぼっちのわたくし。
体育の時間だ。
甲田恵さんは先生の隣で三角座りをしている。
担任教論である地引きが声を上げる。
甲田は眼帯が取れるまで体育を休みやからの。
体操着に眼帯。体育お休み。
魅惑的なそのありさまに
アホーの男子もこまししゃくれた女子も目を細める。
な、なんで休みなん?
地引きに堂々と聞くのはいつもポッサン。
学級の切り込み隊長だ。
吉尾の男子児童。
コッコの新生児の時からの幼なじみである。
ポッサンの話し方にも
コッコは昔から親族憧れており
答えるごとに真似てみるのだが
ポッサンのように格好良くはいかない。
ポッサンの話し方は歌を歌っているようであり
何か大切な説教をしているようでもある。
独特の格好良いリズムがあるのだ。
ポッサンの質問を受け地引きが答える。
あんな、片方の目だけやと遠近感がわからへんくなるのや。
高田めぐみさんは遠近感がわからない。
遠近感という言葉の意味自体はわからないが
わからないがゆえの
ああ、魅力的な響きに皆はまた夢中である。
そ、そ、それはええ、ええこっちゃな。
ポッサン興奮、リズムに拍車。
コッコは高田めぐみさんをじっと見る。
コッコはあそこに座りたい。
みんなと私は違うのだということをかみしめながら
片方の目だけでみんなを見つめていたい。
遠近感がわからぬことなど皆様には理解できないでしょう。
いいのです。放っておいて。
一人にしてくださいませ。
体育の終わり、深呼吸をする頃には
コッコはあっち側で孤独を感じながら座っている自分を想像
涙さえ流しており自撃を驚かせた。
ドナイスタンやウツハラ
一番に顔と名前を覚えられ人気者であった。
09:00
三つ子たちは母、そしてコッコと同じようにとても美人なのである。
そんな状況なのに彼女らは至って普通なのだ。
自ら目立つことは決してしないし
三つ子であることへの不満を口にしたこともない。
終始イチャイチャ
バスケ部とソフトボール部と手芸部で
そしてコッコのことが大好きで
あないつまらん人間が三つ子や言うだけで目立ち腐って
姉らが美人であることはコッコにはまだ理解できない。
そしてコッコが生まれてきてからずっと言われてきた言葉
コッコが大嫌いな言葉がある。
あの三つ子の妹
その後に続く言葉が
可愛いわね、でも賢い、でもコッコは気に入らない。
どうして頭に三つ子の妹がつくのか
三つ子というものはそんなに価値のあるものなのか
それを言うなら姉らをコッコの姉の三つ子と呼べと思う。
私のような才あるものが
どうしてあんな凡人らにくっついたような呼び方をされねばならぬのか
とも思っている。
例えば三人で決託
自分たちだけは素晴らしい服を着てパーティーに行き
コッコにはみすぼらしい服を着せて掃除をさせたり
例えば同じ顔を利用して昔の偉いアメリカ人を騙したり
とにかく三つ子という状況を考えれば
生活はいくらでも魅力あるものにできるはずなのだ
なのに奴らはいつもこんな風である。
コッコおいで髪の毛とかしたろ
コッコドーナツ食べる?
お姉ちゃんのあげる
コッコボタン取れてん付けたろか
コッコ、コッコ
ニコニコと嬉しそうな三つの同じ顔
凡人が三つ子に甘んじゃがって
だが実際
リコが髪をとかす手は優しく
マコのくれるチョコレートがついたドーナツは甘く
トモミが縫ってくれるピンクの糸はかわいい
コッコは三つ子に囲まれて眠る
コッコは孤独が欲しい
三つ子の妹でもない
誰でもない
コッコになりたい
今日な、小田めぐみさんが眼帯指摘発展
夕食だ
宇都原家のテーブルは
つぶれた駅前の中華や
大陸からもらってきた円卓
とても大きいから
今のほとんどを占拠している
とんでもない存在感
真空だ
12:01
そこに
父、母、三つ子、祖父、祖母、コッコ
その8人で座るものだから
風景として圧巻である
卵焼きも野菜炒めもそうめんの薬味も
円卓をくるくる回り
家族に届けられる
つまり、大家族にはとても便利なテーブルなのだが
六畳今の畳の上では
やはり圧巻である
真空だ
物もらいか
父、宇都原、カンタ
便利屋で働いている
エアコン、ウォシュレット、浄水機の設置
水道管の修理、カーテンレールの取り付けなど
ある時は庭の草むしり
引っ越しの手伝いなどもする
中退したものの
学生時代はラグビーの選手として活躍
ハンサムであほやからあもてた
若毛のいたり
左腕に怒りのマークの入れ墨がある
彼は海の男ではない
だが自分の丸短棒のように太い腕には
怒りが似合うと思ってしまったのだ
ポッサン曰く、カンタは
あ、あ、IQが低い
コッコはカンタにも不満を持っている
水道校の子供より
ラグビー選手の子供のほうがイケてるやないか
コッコ、カンタが足の人体を痛めたことや
歳をとってはラグビーを続けられないことを知らない
でも不満なのだから仕方がない
凡人が
しかし凡人のカンタが眼帯といえばすぐに
モノもらいかと問うたことに少し驚いた
カンタはモノもらいを知っているのか
カンタもコッコのことが大好きである
可愛くって仕方がないのだ
コッコは俺の天使やでほんま
うつるんやって
高田めぐみさん、だから体育も休みやってん
そうなんや、かわいそうに
母が言った
出た、コッコは思った
ほらやっぱり眼帯いうやつをしたら
モノもらいになったら
みんなにかわいそうと思ってもらえるのだ
かわいそうなコッコになれるのだ
うちも眼帯が欲しい
なんで?
母は渦原しおり
学生ラグビーのチアリーダーをしていた
カンタとは今でいう合同婚派で出会い
厚く交際、満を持しての妊娠
しかも三つ子を経て今に至る
15:00
美人でやはりアホなのでモテた
カンタほどの若気のいたりは経験していないが
怒りすぎると耳がちぎれそうになる
なんで?って聞くなやぼけが
コッコはしおりに対しても不満である
しおりは天使のおへそのように素直な性格
思ったことをすぐ口に出してしまうのだ
お前ら凡人に
カッコええからやなんて言えるわけないやろが
コッコは黙り込んでご飯を食べる
ほっぺたにしめじご飯の茶色いご飯粒がついている
しおりもコッコが可愛くて仕方ない
可愛らしい
コッコはおしめしとった頃と変わらんわ
コッコお弁当つけてるで
祖母は渦原神子
指を伸ばしてコッコのご飯粒を取る
カンタの迷路を快活な性格は神子から引き継いだ
8人兄弟の長女
早くに亡くなった母の代わり
弟の鼻水よだれ鼻くそ
妹の糞尿白身
なんでも取ってやった
もちろん素手である
みんなを無事成人させ
やっと30でとついた時には
世話をする人間が夫一人なのに感動した
主婦ってなんて楽
ずっと手が綺麗
と思う間もなく7人をポロポロ出産
みんな年子で手はボロボロ
一番末っ子であるカンタの家に厄介になっているのは
夢であるしおりと相性がいいから
高段住宅の狭さなど
物ともしまへんである
神子にとっても
コッコはまさに天使
口が悪かろうが
少し偏屈だろうが
目に入れても痛くない孫なのだ
いつかほんまに目に入れてしもたろかしら
モノもらいか
祖父は渦原石田
頑固でひねくれ者の石田
年上の神子に温かく包まれている
末っ子
生まれてすぐに横断にかかった経緯があり
家族に出来合いされたがゆえの孫
そして気難し屋である石田
コッコが家族の中で唯一尊敬してやってもよい
と思っている人物だ
石田は本を何本でも読む
高段住宅狭いのにそれはないで
と言いたくなるほど書籍を大量に買う
小説・ルポルター・写真集・料理本・占い教科書・辞書・辞典
何でも買うのである
石田は文字が好きなのだ
そしてコッコと同様
自分は選ばれた人間であると思っており
選ばれた人間特有の世の中への憂いを持っている
18:04
だから息子であるカンタや
その嫁のしおり
妻カミコはもちろん
可愛いはずの三つ子の
底や裏のない迷路をさに
しばしば駅行きしている
やかましいろいろと
幼いながらもコッコはそれを感じている
石田だけは他の家族と違う
石田もコッコにシンパシーを感じている
そしてひそやかに期待している
コトコは大物になるかもせん
大物というのは何かしらの
石田はカミコがつける水ナスが大好きだ
なぜならコトコはワシに似ているから
石田
水ナスを咀嚼しコッコを見る
爆竜種の通称なんや
モノもらいというやつは
爆竜種?
コッコは石田の口から放たれる言葉にハッとする
石田が放すと
ミンチョウタイの文字が空に解き放たれる
すべ辛く
コッコはそれをつかまえ
一文字ずつ食べる
咀嚼する
石田の放つ文字は大変おいしいのである
爆竜種もジャポニカ自由帳に書いておかねばなるまい
児童らがアホのように
モノもらい
ポッサンに至っては
もらいものと言ってきたそれを
自分だけは爆竜種と言おう
明日だ
高田めぐみさん
爆竜種の調子はどうですか?
そう言ってその場を去る自分を想像し
うっとり目を細めるコッコ
方にまた米
またお弁当つけてるわ
四方八方から伸びる指に
コッコはひるむ
やかましい
いろいろと
水梨の漬物が円卓をくるくる回っている
水曜日の夜だ
高田めぐみさん
爆竜種の調子はどうですか?
え?
チャイムが鳴る直前
コッコに言われた高田めぐみさんは
驚きの色を隠せない
コッコが近づいて来た時から
漠然とあった不安
動揺としたまま修行
一日の始まりである
爆竜種を福六寿にしてしまったのは
コッコだけが悪いのではない
やはり爆竜種をメモした
自由帳を家に忘れてきた
粗弱し自分のものにしたはずの爆竜種を
代弁とともに壮大色の和式弁器に流してしまった
コッコが悪いのか
B棟を出てすぐにコッコは気づいた
しもた
ジャポニカ忘れてしもたやんけ
21:00
でもその頃には
C棟の角で毎朝待ち合わせをしているポッサンが
もうコッコに手を振っていたのである
コ…ココトコ
おはようさん
みんながみんなコッコと呼ぶ中
石田とポッサンだけはコトコと呼ぶ
石田はコッコなどという軽薄な文字より
自分の名付けたコトコという美しい文字の方が好ましいからだが
ポッサンはキツ音の問題
コ…コココと言い出すと止まらなくなるのだ
ポッサン曰く真ん中のトが良いストッパーになるらしい
爆竜種や
コッコ心を決めた
自由帳忘れてきたのであれば
頭の中にしっかりと刻んでおけばいいのである
はい
朗読はこの辺でちょっと終わりにしたいと思うんですけども
いかがでしたでしょうか
はい
あの口の悪い関西弁の小学生の女の子が
まあ主人公ですけども
私の関西弁が生かされる時がきましたね
はいあのまあ面白いですね
その小学生の時にね
なんか自分は違うって言うこととか
違う人への違う特別な人への憧れっていうのって
大なり小なりなんか誰でもあったんじゃないかなと思うんですけど
それをこう書くのがすごい絶妙に上手いですよね
なんか転校生とかね憧れて
なんかなってみたいなとか思ったことありますけど
なんかそういう人と違うなんか大人っぽい何かみたいな
特別な事情みたいなね
こう憧れてたのを思い出しましたね
皆さんはどんな感想をお持ちになられましたでしょうか
また続きが気になる方は文庫本とか出てるんで
まあ読んでもらったら面白いんじゃないかなと思います
映画もあるんでね
はい私のおすすめの本の一つをちょっと朗読しました
はいじゃあ皆さんゴールデンウィーク明けて
お仕事始まる方もいらっしゃると思うんですけども
元気にお過ごしください
はいそれでは今日はこの辺でそろそろお日が来ということで
また次回のラジオでお会いしましょう
23:53

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