1. 寝落ちの本ポッドキャスト
  2. 054夏目漱石「余と万年筆」
2024-08-13 14:16

054夏目漱石「余と万年筆」

054夏目漱石「余と万年筆」

その昔、父親の万年筆を触って遊んでいた記憶があります。作中出てくる「ペリカン」は今もあるからすごいですね。今回も寝落ちしてくれたら幸いです。


ご意見・ご感想は公式X(旧Twitter)まで。寝落ちの本で検索してください。

00:04
寝落ちの本ポッドキャスト。 こんばんは、Naotaroです。
このポッドキャストは、あなたの寝落ちのお手伝いをする番組です。 タイトルを聞いたことがあったり、実際に読んだこともあるような本、
それから興味深そうな本などを淡々と読んでいきます。 エッセイには面白すぎないツッコミを入れることもあるかもしれません。
作品はすべて青空文庫から選んでおります。 ご意見ご感想は、公式xまでどうぞ。
さて、今日は夏目漱石です。
余と万年筆というテキストを読もうと思います。 最近ね、ちょっと文房具と触れ合うチャンスも
ほぼないですよ。 けど、みなさんありますか? 学生の頃だったら、たぶんね、まだあるのかなと思うんですけど、
社会人になるとほぼないですよね。パソコン使ったりしたら、もうほぼないですよね。
万年筆を擬人化させたりするような、ちょっとチャーミングな夏目漱石のテキストだそうです。 少し短いかもしれません。
ということで、サクッと参りましょうか。 それでは参ります。
余と万年筆。 この間、ロワン君に会った時、
マルゼンの店で、 1日に万年筆が何本くらい売れるだろうと尋ねたら、
ロワン君は、多い時は100本ぐらい出るそうだと答えた。 それでは、1本の万年筆がどのくらい長く使えるだろうと聞いたら、
この間横浜のもので、
ペンはまだかなりだが軸が減ったから、軸だけ変えてくれと言って持ってきたのがあるが、
この人は13年前に1本買ったきりで、 その1本を今日まで絶えず使用していたのだというから、
これがまあ一番長い例らしいと話した。 してみると、普通の場合では、いくら残酷に使っても、
大抵6、7年の保証はつけられるのが一般の万年筆の運命らしい。 1本でそれほど長く使えるものが日に100本も出るといえば、
万年筆を需要する人の範囲は非常な勢いを持って広がりつつあるとみても、 まんざら検討違いの観察とも言われないようである。
最も多い中には万年筆増落というような人があって、 1本を使い切らないうちに飽きがきて、また新しいのを手に入れたくなり、
03:11
これを手に入れてしばらくすると、また種類の違ったものが欲しくなるといったふうに、 それからそれへと各種のペンや軸を試みて嬉しがるそうだが、
これは今の日本にたくさんあり得る増落とも思えない。 西洋ではパイプに好みを持って、大小、長短、いろいろ取り混ぜた一組を綺麗に暖炉の上などに並べて
愉快がある人がある。 単に収集境という点から見れば、このパイプを飾る人も、
杯を寄せる人も、氷炭を貯める人も皆同じ興味に駆られるので、同種類のもののうちで、 素人にはわからないような微妙な差別を鋭敏に感じ分ける
比較力の優秀を愛するに過ぎない。 万年筆境も性質から言えば多少実用に近い点で、以上と区別のできないこともないが、
敷いてなくても済むものを5つも6つも取り揃えるのだから、 今挙げた種類の収集境と大した変わりのあるはずがない。
ただその数に至っては、少なくともモッカの日本の状態では、 西洋のパイプ基地外の10分の1もなかろうと思う。
だからマルゼンで売れる1日に100本の万年筆の99本までは、 尋常の人間の必要に責められて、
機場もしくはポケット内に備え付ける実用品とみて差し支えあるまい。 してみると万年筆が輸入されてから今日までにすでに何年を経過したかわからないが、
とにかく効果の割には大変需要の多いものになりつつあるのは争うべからざる事実のようである。
万年筆の最上等になると、 1本で300円もするのがあるとかいう話である。
マルゼンへ取り寄せてあるのでもすでに65円とかいう高価なものがあるとか聞いた。 もとより一般の需要は10円内外の低廉な種類に限られているのだろうが、
それにしても1つ一線のペンや 1本3線の水筆に比べると何百倍という効果に当たるのだから、それが日に100本も売れる以上は、
我々の購買力がこの便利ではあるが贅沢品と認めなければならないものを 愛顔するに適当なくらい進んできたのか、
06:03
または座右に書くべからざる必要品として、値の廉不廉に関わらず 重宝がられるのかどちらかでなければならない。
しかし今その原因の一つに片付けるのは具の至りとして、 また事実の許すごとく、
しばらく両方の因数が総合してこの需要を引き起こしたとして、 要は特に世の見地から見て後者の方に重きを置きたいのである。
自白すると、要は万年筆にあまり深い縁起もなければ、 また人に高尺するほどに精通していない素人なのである。
初めて万年筆を持ち出してからわずか3、4年にしかならないのでも、 親しみの薄いことは明らかにわかる。
もっとも12年前に洋行するとき、 親戚の者が千別として一本くれたが、
それはまだ使わないうちに船の中で機械体操の真似をしてすぐ壊してしまった。 それから外国にいる間は常にペンを使ってことを達していたし、
帰ってから原稿を書かなくてはならない境遇に置かれても、 下手な字をペンでガシガシ書いて済ましていた。
それで3、4年前になってなぜ万年筆に改めようと急に思い至ったか、 その理由は今ちょっと思い出せないが、
第一に便利という実際的な動機に支配されたのは事実に違いない。 万年筆について何らの経験もない世は、
そのとき丸善からペリカンと称するのを2本買って帰った。 そしてそれを未だに用いているのである。
が不幸にして世のペリカンに対する感想は甚だよろしくなかった。 ペリカンは世の要求しないのに印記を無闇にポタポタ原稿紙の上落としたり、
また是非墨色を出してもらわなければ済まないとき、 ガンとして要求を拒絶したり、ずいぶん持ち主を虐待した。
もっとも持ち主たる世の方でもペリカンを抗偶しなかったかもしれない。
不祥な世は、印記がなくなると勝手次第に机の上にあるどんな印記でも構わずにペリカンの腹の中へ継ぎ込んだ。
また、ブリューブラックの将来嫌いな世は、 わざわざセピア色の炭を買ってきて遠慮なくペリカンの口を割って飲ました。
09:00
その上、無経験な世は、いかにペリカンを取り扱うべきかを介しなかった。
現にペリカンがいかに出ししぶっても、 世は未だかつて彼を選択した試しがなかった。
それでペリカンの方でも中は世に愛想をつかし、 世の方でも中はペリカンを見限ってこの正月、悲願過ぎまでを筆するときは、
またひと時代逮捕して、ペン塗装してペン軸の窮平な昔に逆戻りをした。 その時、世は初めて履別した第一の細工を後から懐かしく思うごとく、
一旦見捨てたペリカンに未練の残っていることを発見したのである。 ただのペンを持ち出した世は、
陰気の切れる旅ごとに墨壷の中へ筆を浸して新たに書き始める煩わしさに耐えなかった。 幸いにして世の原稿がそれほどの手数が省けたとて、早く出来上がる性質のものでもなし。
またペンにすれば世の好むセピア色で自由に原稿紙を彩ることができるので、 まあ悲願過ぎまでの完結まではペンで押し通すつもりでいたが、
その決心の底にはどうしても多少の負け惜しみがこもっていたようである。 世のごとく機械的の便利にはそれほど重きを置く必要のない原稿ばかり書いているものですら、
また買い損なったか使い損なったため、 万年筆には多少手こずっているものですら。
いよいよ万年筆を全廃するとなると、このくらいの不便を感じるところを持ってみると、 その他の人が値の遺憾に関わらず、
毛筆を捨て、ペンを捨てて、 こちらに向かうのはむがう必要があるからで、
財力ある貴公子や堂楽息子の玩具に都合のいい贅沢品だから売れるのではあるまい。 万年筆の丸善における需要をそう解釈したようは、
各種の万年筆の比較研究やら、 いちいちの利害特質やらについて一言の意見を述べることのできないのを、大いに時勢遅れのごとくに恥じた。
酒飲みが酒を買いするごとく。 筆を取る人が万年筆を買いしなければ済まない時期が来るのは、もう遠いことではなかろうと思う。
12:02
ペリカンだけの経験で万年筆はダメだという僕が、人から笑われるのも間もないこととすれば、
僕も笑われないために、少しは他の万年筆も試してみる必要があるだろう。 現にこの原稿はロワン君が使ってみろとわざわざ送ってくれた尾の戸で書いたのであるが、
大変心持ちよくスラスラかけて愉快であった。 ペリカンを追い出した与は、その姉妹にあたる尾の戸を新しく迎え入れて、
それで万年筆に対して幾分か罪滅ぼしをしたつもりなのである。 1972年発行。
ちくま書房。ちくま全集累十版。 夏目漱石全集10。
より読み終わりです。 思った通りやっぱちょっと短いですね。
10分、12、3分ぐらい。 僕も
20代の中頃ですかね。 社内の成功者たちがみんなデュポンの
ボールペンを持っているという 文化があって、今思えば謎なんですけど
だいぶ背伸びをして買いましたね。 3万円ぐらいしたかなデュポンのボールペン。
当時 牛丼が280円とかなんですよ。
今500円ぐらいでしょ。 なんかここ10何年で貨幣価値がだいぶ変わったと思いますが
だいぶ背伸びをしました。 今そのボールペンは
会社の デスクの引き出しで
使われる日を今か今かと待っています。 たまには使ってあげましょうかね。
それでは今日はこの辺で、また次回お会いしましょう。 おやすみなさい。
14:16

コメント

スクロール