1. 喫茶クロスロード 本好き達のたまり場
  2. 【朗読】#7 あの夏が帰ってくる
2023-08-24 09:05

【朗読】#7 あの夏が帰ってくる

週も後半。ちょっと疲れたなあ、そんなときこそひとやすみ。喫茶クロスロードでは毎週木曜日、月ごとのテーマに沿ったエッセイ朗読をお届けしています。/今月のテーマは「なつやすみ」今日は、まさに夏といえば、"甲子園"にまつわるエッセイ「あの夏が帰ってくる」/ 書き手:かおりくん/語り:セイ

00:05
スピーカー 2
カランコローン
スピーカー 1
いらっしゃいませ。喫茶クロスロードへようこそ。
いよいよ週も後半。ちょっと疲れたなぁ。今週もなんだかバタバタしていたなぁ。
そんな気持ちが膨らんでくる頃ではないでしょうか。そんな時こそ一休み。
ここでのんびりしていきませんか。
スピーカー 2
喫茶クロスロードでは、毎週木曜日、月ごとのテーマに沿ったエッセイ朗読をお届けしています。
今月のテーマは【夏休み】。
スピーカー 1
今日は、まさに夏といえば、甲子園にまつわるエッセイを、私、SEIがお届けします。
それでは、どうぞ。
あの夏が帰ってくる。
スピーカー 2
かおりくん
スピーカー 1
慣れた足取りで車両に乗り込む。
スピーカー 2
東京とは違うイントネーションを耳にしながら、今年はどんな出会いがあるだろうか、と心が躍る。
スピーカー 1
直通特急なら10分ちょっと。
スピーカー 2
流行る気持ちを抑え切れずに、私は足早に改札口を出て、高速の高架下を通り抜ける。
スピーカー 1
場内に入った瞬間、目に飛び込む青い空とバックスクリーン。
くまぜみのシャワシャワの大合唱を聞きながら、私は朝から夕方まで日陰になる一塁側南野席中段あたりに腰を下す。
凍ったミネラルウォーターを首筋に当てていると、うぐいすじょうが独特なアクセントで選手の名前を読み上げ始め、サイレンが試合開始を告げる。
一塁側と三塁側のアルプススタンドから、炎天下をものともしないブラスバンドの演奏と、メガホンを打ち鳴らす音、そして歓声が湧き上がる。
ぐんぐん気温が上昇し、ライトからレフト方向へ吹き込む浜風が場内の熱気をかき混ぜる。
私の体温もテンションもあっという間に上がっていく。私は野球が好きだ。
スピーカー 2
最後のアウトを取るまで試合は決まらない。
タイムアウトのないスポーツの醍醐味が詰まっている、と思う。
03:01
スピーカー 1
その中でも高校野球は別格だ。
スピーカー 2
負けたら終わり、のトーナメントで球児たちが懸命にプレーする姿が胸を打つ。
スピーカー 1
注目選手が実力を発揮できないこともあれば、
無名選手が試合ごとに成長し、シンデレラボーイとして大会を接近することも珍しくない。
未完成だからこそ美しい彼らのこれまでの物語や、
伸びしろに勝手に思いを馳せては感情移入してしまう。
でもよく考えてみれば、負けたら終わり、のスポーツ大会なんて5万とある。
どうして私は高校野球がこんなに好きなのだろう。
私だけじゃない。
高校野球を愛してやまない日本人がこんなにもいるのはなぜだろう。
高校野球が特別な理由、
スピーカー 2
それは甲子園球場とそこに集う人々が作り上げる圧倒的な舞台卒なのではないか、と私は思う。
スピーカー 1
真夏の炎天下、陽炎が揺らめくグラウンドで全力を尽くす球児たち。
彼らに声援を送り続ける応援団は、控え部員や、父兄や在校生だけでなく、
学校が近くにあるというだけで応援してくれる地元の人たちまでいる。
さらに、どの学校の関係者でもない、私のような高校野球ファンが大挙して球場に押し寄せる。
スピーカー 2
大会終盤ともなれば、連日5万人もの人々が甲子園球場に詰めかける。
スピーカー 1
試合が進むにつれて場内のボルテージは勝手に上がり、ブラスバンドの演奏は気づかぬうちにピッチが上がる。
運命にも似た声援はどんどん大きくなり、場内は大きなうねりに飲み込まれていく。
5万人の観客は球児たちが作り出す筋書きのないドラマのエキスタラとなり、一種異様ともいえる空間を共有し、
私は普通の公立高校で野球部のマネージャーをしていた。
最後の夏は、9回裏2アウトに逆転さよなら巻き起きするという、あまりにも劇的な幕切れだった。
そして私たちに勝った高校は、そのまま勢いに乗り甲子園出場を決めた。
あの瞬間、同じグランドにいた球児たちが甲子園球場で試合をしているという現実が、遠い世界だった甲子園を急に身近に感じさせた。
甲子園はどのようなところなのか、私はどうしても見てみたくなった。
06:00
スピーカー 1
初めて甲子園球場で見た試合は、強力打戦を誇る地弁和歌山高校と大会No.1右腕を擁する柳川高校の一戦だった。
試合が決まりかけていた4点ビハインドの8回裏。
地弁和歌山が2本のホームランで同点に追いつくと、場内は一気に騒然となった。
延長戦に突入してからは、地弁和歌山の打者が打席に入るたびに、何か起こるのではないかという異様なムードが立ち込め、場内から自然と拍手が沸き起こっていた。
試合の空気を変える真曲として後に知られることになるジョックロックが永遠と鳴り響く中、11回裏にさよならタイムリーが飛び出し、地弁和歌山高校が勝利した。
ドラマチックな試合展開はもちろん、この時味わった場内の混沌とした空気が忘れられず、私はすっかり甲子園中毒となってしまった。
そんな中毒患者としては、コロナ禍での高校野球は観客数も制限され、ブラスバンドの演奏や声援も禁止となり、本当に寂しい限りだった。
でも、今年はついに大好きなあの夏が帰ってくるのだ。
甲子園球場にいつもの夏の風景が戻ってくる。
満員のスタジアム、大音量のブラスバンド、そして大声援。
コロナ禍で高校生活を送ってきた球児たちにとっては初めての体験となる。
異様な熱気も、歓声や悲鳴も、甲子園球場の恐ろしさも。
そのすべてを存分に味わって、大舞台で全力を出し切ってほしい。
私は今年も彼らの輝く姿を余すところなく見届けるつもりだ。
そして、そんな当たり前の夏がこれからもずっと続くことを願っている。
いかがでしたか?
さて、名残惜しいですが閉店のお時間です。
今後も喫茶クロスロードは、あなたがほっこりした時間を過ごせるよう、
毎週月曜日と木曜日、夜21時よりゆるゆる営業していきます。
それでは、本日はお越しいただきありがとうございました。またお待ちしております。
09:05

コメント

スクロール