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2023-09-02 22:32

take.7 『アンダーカレントの扉』 マンガとジャズ、2つの底流の物語を読み解く

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祝!リクエスト回。

ビル エヴァンスのアルバム『アンダーカレント』から着想を得たという、豊田徹也先生のマンガ『アンダーカレント』。いかにしてあの奥深い物語が創られたのか、独自の視点で読み解きます。


ビル エヴァンスとかなえの悲劇/心に刻まれた傷の話/それぞれの人間相関図/実はジャズトリオ?/聴け!サブじいのドラム!/ネタバレ注意。

番組で紹介した曲は、『ジャズの入り口案内所』プレイリストにまとめていきますので、一度聴いてみてください。

AmazonMusic: ⁠⁠⁠⁠https://music.amazon.co.jp/user-playlists/fe0006b2ee5742f6b7207a3d191efcabjajp?ref=dm_sh_3R5Bn5fwAzWZbGOWXcz8hBn0n⁠⁠⁠⁠

Spotify: ⁠⁠⁠⁠https://open.spotify.com/playlist/2q7JQgxIXlBF5AuqQhtvJG?si=YxhSdUE0TEOaz0HWzpxRBw⁠⁠⁠⁠

隔週金曜日、大人の時間20:00に更新予定です。

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Cover Art : でぐちしお

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music : RYU ITO  ⁠⁠⁠⁠⁠⁠

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『surface』『wherever』『Nighit Walking』『Subway』『Favorite Piano』『Trrafic jam』『Good Day』『OK』『Station』『Cyan』『Lamp』 


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ジャズの入り口案内所、本番は、案内役のフランクナッパです。
この番組は、皆さんの身近にある扉を開いて、私独自の視点から、ジャズの入り口をご案内するラジオです。
さてさて、take7 今日、開ける扉は、
アンダーカレントです。 皆さんは、アンダーカレントという漫画をご存知ですか?
実は私、ついこの前まで知らなかったんですけれども、 あの有名ポッドキャスト番組
漫画760さんで紹介されていまして、その中で この作品が
ジャズピアニスト ビル・エヴァンスのアルバム
アンダーカレントから着想を得ていると。 実は私、このビル・エヴァンスは好きで、
ワルツ・フォーデビーというアルバムは、めちゃめちゃ聴いていたのですけれども、 アンダーカレント
このアルバムは聴いたことがありませんで、 これは漫画とアルバム、どちらも行ってみようと思ったわけです。
漫画とジャズアルバム、この2つのアンダーカレントについてご案内したいと思います。
今回、漫画アンダーカレントの内容について、軽くネタバレしてしまいますので、 ネタバレ一切困るという方は、漫画を読んでからお聞きください。
ということで、アンダーカレントの扉を開けてみましょう。
今日のポイントは、漫画アンダーカレントの作者 豊田哲也先生がビル・エヴァンスのアルバムから、
どのようなインスピレーションを受けて、この作品を生み出したのか、 それについて私なりに考えていきたいと思いますが、
ちょっとその前に、それぞれの作品について、 そして
ビル・エヴァンスというジャズピアニストについて、 少し説明をしていきます。
漫画アンダーカレント。 2004年から1年間、月間アフタルーンで連載された作品で、
2023年10月に牧陽子さん主演で、映画化も決まっている。 今、最注目されている作品です。
03:07
物語の簡単な紹介をしますと、 主人公は夫が失踪し、
家業の銭湯も手につかず、途方に暮れる女、関口カナエ。 やがて銭湯を再開したカナエは、組合の紹介で堀という男を一時的に雇います。
多くを語らずにカナエのそばで働く堀。 他にもカナエの失踪した夫サトル。
そのサトルの行方をカナエから調査するように依頼される、 怪しい探偵の山崎。町内で有名な変わり者の爺さんサブ爺。
そんな一風変わった登場人物が織りなす。 それぞれの秘密が工作する人間ドラマの物語であります。
この漫画について面白い話が聞きたい人は漫画760さんの方でぜひ聴いてみてください。 次はジャズピアニストビル・エバンスについて触れていきます。
ビル・エバンスは1929年生まれのアメリカのジャズピアニストです。
見た目はですね、メガネをかけた、七三分けの気難しい顔をした、 猫背で鍵盤を見つめるようにピアノを弾く、そんな写真が印象的です。
よくジャズピアニストのイメージとしてイラストなんかに描かれる、 そんなタイプの絵のモデルになっているだろうと思いますけれども、
実は彼、背が高くてスポーツマンのような見た目で、 饒舌で柔らかい笑顔が印象的なタイプだったようです。
本人も、 この写真の眉間にシワを寄せて深刻ぶっている男は誰なんだと思うぐらいだ。
私はほとんどのポートレイトで、微笑んでいるかリラックスしているが、 レコード会社やマスコミは笑っていないシリアスな写真を使いたがる。
と言っています。 彼の弾くピアノがとても繊細で序章的なものがありますから、
そういった音楽のイメージを優先したのかもしれません。 そんなビル・エヴァンス。
早くから天才と言われ、 フィンガーズというあだ名がつくほどの腕前。
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15歳でプロとしてステージに立ちます。 彼が出演していたジャズクラブがビレッジ・バンガード。
日本では遊べる本屋として有名な、 あのごちゃごちゃした雑貨屋の店名の元ネタになったところです。
そこでジャズ界のスター、マイルス・デイビスと出会って、 なんと彼のバンドに誘われます。
まあね、いろんな理由がありまして、マイルス・バンドの在籍っていうのは、 わずか7ヶ月になります。
しかしですね、この脱退後、 マイルス・デイビスがニューアルバムを作るときに、
再びビル・エヴァンスは呼び戻されて、 レコーディングに参加します。
そのアルバムが現在まで世界で一番売れているアルバム、 カインド・オブ・ブルーです。
ちなみにこの時のビル・エヴァンスのギャラが、 64ドル45セントだったそうです。
当時のレートはわかりませんけれども、 世界一売れたアルバムのギャラとしては、 めちゃめちゃ安く感じます。
その後、名前が売れ始めたビル・エヴァンスは、 自分のバンドを組むことになります。
ドラムのポール・モチアン、 ベースのスコット・ラファロン、
エヴァンスのザ・ファースト・トリオと呼ばれるバンドです。 このバンドは自分の音楽に対して、
とてもストイックなエヴァンスが、 長らく追い求めた理想のバンドであり、
2人のメンバーに対しても、 思い入れがとても深いものだったと考えられます。
このトリオの3枚目と4枚目のアルバムは、 ビレッジ・ヴァンガードでのライブ音源を収録したアルバムです。
その演奏内容は、エヴァンスにとって、 とても音楽的に満足のいくものだったようで、
この日のライブで演奏した、 I LOVE YOU POGGYというナンバー。
この曲のテープを聴き直している時に、 おい、聞いたかい?今のスコットのベースを。
まるでオルガンみたいだ。 ものすごく大きな音で、しかも幻想的じゃないか。
こんなスコットを今まで聞いたことがないよ。 とエヴァンスが語っていたと、
後にドラムのポール・モチアンが話しています。 その伝説のライブの収録が、1961年の6月25日。
09:00
その11日後の1961年7月6日。
ベーシストのスコット・ラファロが、 交通事故でこの世を去ります。
去年25歳。 エヴァンスにとって予期せぬ突然のお別れでした。
ここで切ないのが、 ラファロが最後にプレイしたのが、
ビル・エヴァンストリオではなくて、 別のバンド、スタンゲッツ・カルテッドだったということ。
当時のエヴァンストリオは、まだまだ無名で、 それに比べて有名だったスタンゲッツ・カルテッドは、
当然ギャラの払いも良くて、 ラファロは生活のためもあって、2つのバンドに在籍していました。
ビレッジ・ヴァンガードでのライブの後、 スタンゲッツ・カルテッドとして、ニューポートジャズフェスティバルという、
今でも続く有名なジャズフェスに、 7月4日まで出演します。
つまり彼の最後のステージに、 エヴァンスはいなかったのです。
スコット・ラファロの死後、エヴァンスはあまりの悲しみに、 しばらくピアノを弾くことができず、悲しみに暮れる日々を送ります。
その様子をメモまで知られる、 ドラムのポール・モチアンはこのように記録しています。
ビルが受けたショックは大変なものだった。 私のメモを見ればわかる。
Nothing. Nothing. Nothing. 毎日何もなかった。
そしてそれが、その年の12月まで続いた。 ビルはまるで幽霊だった。
その後、ビル・エヴァンスは、 スコット・ラファロと共に演奏した、
あの、I Love You, Porgyをソロで演奏するようになったと、 ポール・モチアンは証言しています。
ビルにしか聞こえない、ラファロのベースと 共演していたのかもしれない。
ビル・エヴァンスのスコット・ラファロに対する喪失感は、 計り知れないほど深く、その後何年にもわたり、
埋まることはなかったのです。 そんな失意の真っ最中のビル・エヴァンスが、
ギタリストのジム・ホールと共演し、 1962年4月と5月に収録したアルバムが、
Undercurrentです。 さて、ここまでお話ししたことをもとにして、
豊田先生がどのようにアルバム、Undercurrentから着想を得たのか、 これについて考えてみましょう。
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私が思ったのは、 これ、アルバムの音楽だけを聞いて漫画の構想を練り上げた、
というよりも、 先にお話ししたこのビル・エヴァンスの物語に、
着想を得た部分が大きいのではないか、ということです。 なぜなら、漫画の人間相関図とビル・エヴァンスの周りの相関図に、
共通する部分を多く感じるからです。 ちょっと具体的にお話ししましょう。
漫画の主人公、カナエ。 突然夫が行方不明になり、仕事が手につかなくなるものの、
ゆっくりと仕事を再開する。 そんな姿は、ラファローを突然の事故で亡くした、
ビル・エヴァンスに重なります。 そんなカナエの前に現れて、先頭の仕事を手伝うオリ。
失意の中、仕事を再開するビル・エヴァンスと共に、 Undercurrentを収録したジムホールのようではないですか。
このエヴァンスとジムホール。 以前にモダン・ジャズ・カルテッドのピアニスト、
ジョン・ルイスの制作した映画音楽の収録で共演をしておりまして、 この二人をつなげる人物として、このジョン・ルイスがいます。
漫画でもですね、カナエとオリをつなぐと、 いくつもの似た点を見つけることができます。
こうした共通点はとても興味深く、 作者の豊田先生が全く知らなかったと考えるには、
いささか無理があるのではないでしょうか。 この事実を基にして、先生の中でUndercurrentの設定が作り込まれていったという方が、私には納得がいきます。
さてここからは、私個人の感じたことになりますが、 この漫画、
実はジャズのトリオバンド二組による編成で成り立っているのではないか、 ということです。
エヴァンスのトリオ編成は、ピアノとベースとドラム。 主人公のカナエと失踪した夫のサトル。
そしてその二人の物語を進めたり、変化をもたらしたり、 オリのいる戦闘の場面とはまた違ったこの場面の雰囲気を作り出しているのが、
15:10
怪しい探偵の山崎です。 この山崎の役割は、ジャズバンドの中では主にドラム側になります。
まるでカナエのピアノとサトルのベース、 山崎のドラムによるトリオバンドのようではないですか。
とはいえね、サトルはほぼ演奏してないんですけれども。 同じように今度はカナエとオリに、戦闘チームの方へ目を向けてみましょう。
カナエとオリ。 この二人の物語を動かしているのが、
近所で有名な変わり者のじいさん、サブジーです。 つまり、さっきの山崎同様、サブジーがドラムを叩いています。
このサブジーのドラムが私大好きで、 山崎よりも、なんて言いますか、表情豊かで、よりコミカルに道化を演じてくれているところ、とてもいいですね。
それでいて、渋い一面を出して、決めるところをピシッと決めてくれるっていうか、 こういうドラムのいるバンドっていうのは、表現が豊かで、とても面白い演奏をしてくれます。
私のこの作品の推しポイントの一つは、このサブジーのドラムです。 このようにカナエを中心に2組のトリオバンドが交互に演奏を行い、
それが多組に融合、セッションしているのが、この漫画、アンダーカレント。 アルバムのライナーノーツによると、
アンダーカレントとは、川の底の流れというだけではなくて、 川などで、上の層と下の層がそれぞれ逆に流れるということも意味するそうです。
一つの物語の中で、2組のバンドがそれぞれの流れに乗って物語を紡いでいる。 そんな視点で見ることもできるのではないか。
そんなことを感じました。 また、セリフのないコマが多くて、映画的だとよく言われるこの映画。
本当に読む人によって感じ方が違うと思いますし、 そこがまた味わい深くさせている要因でもあります。
が、今日のご案内をもとに、 ぜひジャズ的な楽しみ方もお試しになってはいかがでしょうか。
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最後に、アルバムアンダーカレントからローメインをご案内します。 ローメインはジムホールの作曲なんですけれども、
初演、初めて演奏したのはモダンジャズカルテット。 つまり、このジムホールとビル・エバンスは以前からジョン・ルイスのところで一緒に仕事をしており、
このジョン・ルイスが在籍するモダンジャズカルテットが演奏したローメインというのは、 この2人をつなぐ1曲。
漫画アンダーカレントの扉からご案内するにはぴったりの1曲だと思います。 タイトルアンダーカレントが表す通り、ギターとピアノ、それぞれのソロパートが上層と下層を流れる2つの流れになっていて、
滞留して時折重なり合いながら、 1つの音楽を作り上げています。
失意の中、それでもジムホールとの共演はエバンスにとって心地の良いものだったようで、 その後も何度か一緒に仕事をしています。
アンダーカレント以降の5枚のアルバムを見ていきますと、 そのうち3枚がジムホールとの共演というのもそれを物語っています。
ジムホール自身も、 やってみたら僕らは簡単に合わせられることがわかったと言っている通り、
ジムホールとビル・エバンス、音楽に対して通じ合うものがあったのではないでしょうか。 もう1曲、
ビル・エバンスのザ・ファースト・トリオ。 アルバムワルツ・フォー・デビーからスコット・ラファロとの共演をしのんで弾いた
アイラブユーポーギー。 このスコット・ラファロとの共演。
こちらは今日のエピソードを胸に、 ぜひゆっくり味わって聴いてみてください。
10月の映画公開も楽しみなアンダーカレント。 ぜひ一度読んで聴いて見てみてください。
ということでお送りしましたジャズの入り口案内所は各週金曜日。 大人の時間20時頃に配信予定です。
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今日改めてリクエストって嬉しいなぁと 楽しいなぁということがわかったんでぜひ皆さんね
取り上げてほしいアーティストやおすすめの作品 テーマのリクエストなどねあれば送ってください。
また感想などもねいただけると励みになりますのでお気軽にコメントください。 この番組を面白いと思っていただいたらフォロー高評価通知のオンをよろしくお願いします。
この番組で紹介した楽曲はスポティファイ アマゾンミュージック内にあるジャズの入り口案内所
プレイリストにまとめていきますのでそちらも合わせて聞いていただけると嬉しいです。 なお当案内所ではジャズを聞くとき
周りの人に迷惑にならない程度にできるだけ大音量で聞くことをお勧めしています。 ここまでお付き合いありがとうございました。
それではまたのお越しをお待ちしています。 案内役はフランクナッパでした。
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